挑む力 世界一を獲った富士通の流儀

挑む力 世界一を獲った富士通の流儀

挑む力 世界一を獲った富士通の流儀

富士通がこれまで手掛けてきた大規模プロジェクトのドキュメンタリですが、こうしたプロジェクトで一番すごいと思うのは、技術的に世界で初めてであり、また簡単には真似のできない事を請け負って、そして実現させるという点にあると思います。スーパーコンピュータ「京」にしてもそうですが、世界一の演算速度を目指すと言う事は、当然、今まで誰にもできなかった事をやるという訳で、単純に新規ビジネスを立ち上げるという話とは違います。アイデアや企画力があっても、技術がなければ形にする事はできませんから、やはり技術力というのは偉大だなァと思いました。

memo

第1章 スーパーコンピュータ「京」
  • 「経営をやるんだよ」「経営ですか。でも、沈みそうな船を歩救うような経営は、人的にも損益的にも、なかなか難しいと思います。私が行っても微々たる効果しか出せないのでは…」「生意気な事を言うな、バカ野郎。それを救うのが、お前の役目だ」
  • 「味方になって欲しい。まずは役員に味方になってもらおうと思いました。でも、東京の本社では15分とか20分とかしか、役員の時間が取れないんです。だから、逆に沼津に来てもらおうと。それまでにも親しい役員には『ここまで動きました』などと、適宜、報告していました。その反応を見て、やはり計画を説明して現物を見てもらうことが、役員に味方になってもらうチャンスだと思いました」
  • 「国の帰還技術とも言えるスパコンは1位を狙うのが当然だと考えていただけに、ショックは大きかったですね」
  • 「わかってますよ、6月でしょう。私達が足を引っ張る訳には行きません。それに、この状態から世界一になれば、それが復興への足がかりになります」
第2章 株式売買システム「アローヘッド」
  • 2006年8月、東証は新システムの開発ベンダーの公募を始めた。真内健は提案に関わる前に、「富士通としては手を挙げないと言う勇気もあるだろう」と思っていた。
  • 「提案するからには絶対に受注する。そうでなければ、『富士通はあのトラブルのせいで受注できなくなった』という評価を、ずっと受け続ける事になる」
  • 「技術に強くないと、周りに影響を与えられないと思っています。うわべだけで語っては、評論家でしかない。誰もが『ああそうだね』と納得する言葉を発するには、技術をきちんと知っている必要があります」
  • 「システムが全自動で判断して対処できればよいのですが、まだまだそこまで万能ではありません。人間がカバーしないといけない部分があります。そこに対応できていなかったことが、反省点です」
第3章 すばる望遠鏡アルマ望遠鏡
  • ハワイに日本の天文台を作る。それは、世界最先端の望遠鏡を使い、まだ誰も見た事の無いものを観測するためのプロジェクトだ。しかも、望遠鏡は、標高4200メートルのマウナケア山頂に設置し、それを支援する業務を山麓のヒロで行うため、規模も大きい。
第4章 復興支援
  • 翌日の12日土曜日。飛行機で東京を戻り、帰宅した野口はシャワーを浴び、それから車で汐留の本社へ向かう。すでに上司からは企画書に対し、「進めて良し」の返事を得ていた。「きちんと現場を見据えながら進めよ」というアドバイスも添えられていた。
  • 日曜にまたしても出社していた野口は、企画書を見た幹部社員に「このまま霞ヶ関へ持って行け」と言われた。政府の災害対策本部へ、手伝いを申し出ろと言う訳だ。(中略)国の災害対策本部へ最初にやってきた民間企業は、自分たちのようだった。
  • 一枚一枚のヒアリングシートからは「一つとして同じ避難所は無い」ことが生々しく伝わってくる。同じ100人がいる避難所でも、高齢者率が違う。介護が必要な人の数が違う。要介護認定されていなくても、愛用の補聴器や眼鏡が無い事で、十分に情報を得られず、不自由を強いられている人たちがいる。
  • 「実践あるのみ。理屈なんて後付けです。考えてから行動するのでは遅い。行動しながら考えて、実践知を得るしかありません。そうしながら実績を作れば、必ず報われます。逆に、こういった非常時に、やらなかったらどうなりますか。富士通はお金がないと動かない会社だと思われてしまう。
第5章 「らくらくホン」シリーズ
  • 「高度な技術を、先進機能として製品に入れ込む事は、技術開発にとってはある意味楽かもしれないと思います。むしろ、高機能な技術を、意識する事無く簡単に使えるようにすることの方が難しいのではないでしょうか。こうした観点では、他の製品の開発よりらくらくホンの方が、一段高い所にあるような気がします。」
  • 「子どもがかわいいのは分かるよ。だけど、君は第一号者だよね。育児休暇をした第一号者が会社に戻って来なかったら、その後に続く人は、どう見られると思う?」
第6章 農業クラウド
  • 「現場で手軽に情報を得ようとすると、すぐに『スマートフォンで情報を』と考えますよね。ただし、それが通用するとは限りません。現場では手袋をしています。泥もつくし、雨も降る。防水じゃないものなんて使えない訳です。それから、太陽光が強いですから、画面が見えないんです」
  • 「ICTは、道具にしかならない。道具を使って、農家さんに強くなってもらいたいと思っています。
第7章 次世代電子カルテ
  • 病院側の狙いに的確に応えたのが、甲野がヒアリングを繰り返して作成した新システムの仕様書だった。仮想化技術を用いる事により、利用端末となるシンクライアント上で新しい電子カルテシステムと情報系システムの両方が使えるようになった。
  • 「仮想化とかクラウドとかいう言葉は、どうしても一人歩きしがちです。でも実際には、そういった技術は手段であって、それをやることそのものが目的じゃないんです。目的は、お医者ささんや、その先にいる患者さんのためになること、技術中心を考えるとそこが逆転してしまうこともありますが、あくまでも診療のシステムをこう作りますと提案できたのが大きいと思います。」
  • 「医師は医師、看護士は看護士、検査技師は検査技師、それぞれエリアのスペシャリストなので、視点が違うんです。その全部に応えていたら、たぶんシッチャカメッチャカになるので、そこを束ねて、みんなのメリットになる部分はやる、我慢してもらう所は我慢してもらう、やるべきことはやってもらうということになります」
第8章 ブラジル/手のひら静脈認証
  • 犯罪の多いブラジルでは、ATMからキャッシュカードでお金を引き出す際、日本のように4桁の暗証番号だけで引き出す事はできず、加えて6桁もの数字を入力する必要がある。操作時に煩わしいだけでなく、目の見えない人などにとっては大きな負担になっていた。
  • 「一つの銀行が何万台もATMを持っているんです。ブラデスコ銀行も、3万5000台くらいを持っていて、そこに手のひら静脈認証が採用されるのは、画期的なことでした」
  • 一つの仕様やルールを、世界の隅々まで渡り巡らせることではなく、その国を理解し、土地に応じて変更すること、そうするだけの柔軟性を持つことが、グローバルだと言うわけだ。