チョコレート: 甘美な宝石の光と影

チョコレート

チョコレート

すっごい面白くて今年読んだ本の中でも一番じゃないかっていうくらいだった。そしてチョコレートの奥の深さはなんだか葡萄酒のそれと似ていた。チョコレートは歴史なくして語れない、というかこの本でチョコレートの歴史を追うんだけど、違う視点でみる世界史、みたいで面白かった。時間軸だけじゃなくて、世界を周遊してチョコレートが進化していく様子を知った。まあこの本を読んで一番感じたのはヴァローナのグラン・クリュ食べたいっていう気持ち。

memo

十人中九人はチョコレートが大好きだと言う。残る一人は嘘つきである。ーアンテルム・ブリヤ=サヴァラン

インディオ達が手のひらいっぱいに掴んで差し出した者は、ヨーロッパ人の眼には萎びたアーモンドにしか見えなかった。その何粒かが舟底にこぼれ落ちるや「まるで大事な目玉でも落としたかのように慌てて拾い上げようとする」姿を見て、コロンブスはただ不思議がるばかりだったと、同行していた息子フェルナンドはのちに伝記に記している。

と同時に協会はジレンマに陥った。カカオは奇跡の薬か、悪魔の興奮剤か。食べ物なのか、飲み物なのか。1569年に結論を下したのは教皇ピウス5世で、四旬節にかぎり飲み物としてのチョコレート、ココアは許可されることになった。

斬新なアイデアと壮大な夢を次々と実現しているベルギー人ショコラティエピエール・マルコリーニが融通の効かない自国の消費者に揺さぶりをかけたのは、ダークチョコレートのほのかな紅茶の香りと甘酸っぱい刺激的なフルーツの味を組み合わせた、その独創性によってだった。

パレ・ドールはボンボン・ショコラの基本中の基本。滑らかなダークチョコレートのガナッシュをごく薄いクヴェルチュールで包んだ、シンプルな四角いチョコレートである。

生クリームを使ったガナッシュはほかのチョコレートよりも痛みやすいので、賞味期限は一週間が限度。それでなくても、いいチョコレートはみな寿命があるという。

「チョコレートはとても官能的な食べ物。だから、常に罪や快楽と結びつけて考えられてきたし、様々な宗教で見下されてきた理由もそこにあるの。食べる時には、自分を許さなきゃだめ。溶けたチョコレートの芳香で口の中を満たすと、幸せな気分になれる。五感のすべてが刺激されて、それがまた互いに作用し合うから素晴らしいのよ」

アステカの時代から、チョコレート史はモレの道を辿るかたちでつづいている。言葉の本来の意味はチリ唐辛子などの材料を使ったソースのことだが、ポブラーノープエブラ風ーがつくと、チリ唐辛子をベースに、微妙に甘いチョコレートの味を利かせた風味豊かなソースの意味になる。

一世紀にわたり天才的ブランド戦略を展開してきたハーシーは、星条旗にも勝るアメリカそのものだった。チョコレートだけでなく、チョコレートにまつわる全てを国中のこどもや大人に売ってみせたのが、ミルトン・S・ハーシーという男だったのである。

マーズ社はハーシーと双璧を成すアメリカのチョコレートメーカーだが、今でもこの名を聞くと創業者一族より火星が頭に浮かぶという人の方が多い。

「あなたが焼いたチョコレートケーキ、こどもたちが学校のバザーで販売したキャンディバー、土曜の午後に皆で食べたファッジリップル・アイスクリームは、こんな知られざる原材料が混ざっているかもしれないのです。ー"奴隷労働"」

ヴァローナの年間チョコレート生産量は約7千トンで、スイスに本社を置くバリーカレボーがフランスのカカオバリー社およびベルギーのカレボー社の所有だった工場で現在生産しているチョコレートの、約百分の一ほどでしかない。ただし、そうしたライバルの大手メーカーと異なり、ヴァローナ社は高品質のチョコレートだけを生産している。

ちがいよりも類似点を活かして特別にブレンドしたチョコレートは、ワインと同じでグラン・クリュと呼ばれる。

味のいいガナッシュやプラリネを作るショコラティエはほかにもいくらでもいるが、美しさではこの店の主人に敵うものはいない。チョコレートが呼び覚ますべきは味蕾だけではなく、他にも重要な感覚的要素があるとエヴァンは信じている。

パリのチョコレート愛好会クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラが年に一度ガイドブックを発行してはいるが、その評価も絶対的なものとは言えない。

「ベルギーは地理的にちょうど交差路にあって、周囲の国々から少しずつ影響を受けている。…ベルギーではチョコレートを型に流し込んで固めることが多い。当然、コーティングは厚くなります。…フランスはクヴェルチュールが薄い。」

ゴディバのディスプレーはなるほど、美しい。どのみせでもボンボンはきらびやかな装飾がなされ、消費者の感性に巧みに訴えかけるよう工夫されている。…問題は、それほど魅力的に見えるチョコレートが、私に言わせるなら溶かした鑞に大量の砂糖をぶちこんだような味しかしないことである。…クロエは試食して、金属の味はしないけれど、吸い殻だらけの灰皿を思わせると表現した。

「この国の人は、まだ賞味期限六週間が理解できていない。質の良さを求めるエリートはみんなふつう、海外でチョコレートを買ってくる。…なんであれアメリカで起きた変化がイギリスに波及するには、最低でも十年掛かる。要するにイギリス人には食のなんたるかがわかっていないのよ」

スイスにもいいショコラティエはいるが、見つけるのは難しい。アルプスの牧草地で草を食む恵まれた牛達の牛乳を使って甘いミルクチョコレートをつくっている職人が、いまなおいないわけではない。が、そのイメージは、さまざまな現実と共にもはや遠い過去のものとなってしまった。スイスにとってが運のいいことに、外国人である私達の大半が未だその事実に気づかずにいる。

食と料理に関しては狂信的愛国主義者といってもいいフランス人も、ヌテッラには勝てない。フランスでの年間販売量は瓶にして八千万個。私自信も、パリの街角で食べるならヌテッラを塗った焼きたてクレープが一番だとおもっている。

疑いようがないのは「ココアが自然のミネラルの宝庫であり、ほかの食物より栄養価が高いことである」ルピアンはこう断言した上で、その証拠をいくつか挙げている。ひとつは、まずチョコレートが北アメリカの人々の食生活のなかで銅の主な摂取源となっている点。また抗酸化作用はLDLコレステロールの酸化を防ぐと同時に、ストレスの緩和にも役立つ。またチョコレートでアレルギー反応はめったに起きない。

アメリカも高級チョコレート嗜好になってきている、それは間違いない、とルービンは言った。…1991年にはダークチョコレートを好むアメリカ人は15%しかいなかった。2004年には、それが30%ちかくに上昇。しかし、未だその程度だ。

五百年前に始まった旅は、ロビラで一巡りし終えたかのようだった。旧大陸にカカオをもたらしたスペイン人達スイス人、オランダ人、イギリス人の手へと渡ったチョコレート作りの技を最後にものにしたのはフランス人だった。そしていま、今度は宇宙へ向かおうとするスペイン人ーいや、カタロニア人がいる。チョコレート職人というよりアーティストと呼ぶにふさわしいロビラが産み出したプラネタリー・コレクション。太陽系の惑星を模した光り輝くような球体は中身のガナッシュがそれぞれ異なり、表面の凝った彩色がみごとに新しい世界を創り出している。

チョコレート工場の秘密 (ロアルド・ダールコレクション 2)

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