化物語(下) (講談社BOX)

化物語(下) (講談社BOX)

化物語(下) (講談社BOX)

化物語二作目であるが、西尾維新の言葉の使い方と同じくして面白い部分と言えば、この二巻目を読んだ時に分かる、千石撫子にまつわる怪異の特殊性から見る対比の取り方、もとい物語の作り方なのではないかな、とか思ったり。怪異に魅せられた人間は不幸に見舞われる訳だが、その原因がそれぞれの登場人物については異なっている。千石撫子の場合は、その発生原因が他者の悪意によって引き起こされたものであり、プロットの作り方も他の4人と大きく異なる。しかしそれだけ特殊性を持つユニークな話であるのだが、逆に2巻目で羽川の物語の方が長くなっているのは、登場人物の過去を掘り返すという大きなステップを描くことができなかったからと思われる。怪異に近付く要因となるのは、自分の弱い部分から逃げようとする心の隙間であるのだが、千石撫子の場合には本人に意志はなく、他者から呪いを受けて怪異が発生するという扱いになっている。この、不幸を押し付けらると言う、他の登場人物にはなかった要素が入ってくるのが、非常に面白い部分である。あくまでも千石撫子は他者が原因となって怪異に見舞われただけであり、戦場ヶ原、八九寺、神原、羽川の場合には怪異との共犯関係が元になっている。怪異に近付いた人間は、過去に家庭もしくは友人関係にトラウマと持っていると言う共通項があるのに対し、千石の場合には過去のトラウマではなく過去に起こった人間関係の縺れによる、八つ当たりとか事故のようなものなのである。

なでこスネイク

「言うなら、君たちは全員、加害者側の人間だった。意図があろうがなかろうが、きみたちは怪異とは共犯関係にあったんだ。手を汚した人間が足を洗うには、それなりの手順が必要ーなんだよ。今回のケースは違うじゃないか。千石撫子は明らかに、ただの可哀想な被害者だ。何も悪く無い。蛇切縄をけしかけられる理由すらも薄弱だ。怪異にはそれにふさわしい理由があるーしかしこの場合の理由は、お嬢ちゃんには全くないね。蛇を十匹かい?殺しちゃったけど、それだって防護策だ。運が悪かっただけ、ついてなかっただけーさ。誰かの悪意によって狙われた被害者にまで、自己責任を求める程、僕は狂っちゃいない。そう言う人は、ちゃんと救ってあげなくちゃ」

つばさキャット

「障り猫」階段を昇りながらー忍野は言った。猫。食肉目ネコ科の哺乳類。しなやかな肉体、鋭い歯、ざらざらの突起が生えた舌に鉤爪が特徴ー能ある鷹は爪を隠すなどと言うが、爪を隠すと言う点に関しては、この生物だって引けを取らない。何せ、その鉤爪は、鞘に収納することが出来るのだ。人間が気持ちいいと障りまくる手足の肉球も、獲物を狩るために足音を消す役割を果たす、実際的な器官である。「あるいはしろがねこ。白銀猫、ね。猫の舞とも言うけれど、これは同名の妖怪がいるからややこしいので、あまり採用されない。やっぱり、障り猫というのが、通例だね。障りに、猫で、障り猫だ。尻尾のない猫ー尾を引かない猫。怪異だ。三味線の材料としても有名だけどーうん、今となっては、猫は、完全に、犬以上に、愛玩動物なんだよね。ネズミも捕らないし、警察猫や盲動猫ってのは、いないもんなあ。怪異ということでいうなら、有名な三大化け猫伝説には触れておくべきだろうね……はっはー、いやいや、なんて、こんなこと、阿良久木くんならともかく、委員長ちゃんには、言うまでもないことかな?」