イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」


色々と本を読んではいるが、ここまでのブレイクスルーは滅多にない。大体のビジネス書というのは、突き詰めると本質的な内容が被ることが多々あるからである。自己啓発本などが最たる例であり、どの本を読んでも最終的には似たようなことが書いてあると気付く。一時期、有名なビジネス書を読み漁っていた時期があるが、段々と満腹感を覚えるようにになり、自分の深い所に根を張る様な本が読みたくて、ビジネス書はなるべく読まないようにしていた。しかしここに来て良書と思しき本を何冊かピックアップできたので、当時の熱が再燃した。昔より良書を選ぶことができる実力が付いたか。

ブレイクスルーと書いたが、本書には僕が初めて触れるような内容が非常に多い。即ち、本書によるとコンサルティング・ワークとは

  1. イシュードリブン
  2. 仮説ドリブン
  3. アウトプットドリブン
  4. メッセージドリブン

というアプローチであるが、ここで言えばそのコンサルティング・ワークの根幹である「イシュードリブン」の部分が、ぼくにとっては初めての概念であった。仮説ドリブンからメッセージドリブンまでのフェーズでは、自分の知識とリンクする部分があったのだが、このイシュー分析は想像していたよりもずっと手強く、興味深い手法であった。概念が難しいが、自分が今取り組もうとしている課題が本当に解くべき課題なのかを再度確認して最終的なアウトプットのインパクトを強めるということか。

また、なぜ本書の内容が他のビジネス書と一線を画する内容なのかという点であるが、これは、マッキンゼーコンサルティング・ワークにおいて現場の体験を限りなく具体的に日本語に落とし込んだものであるからではないかと推測できる。他の本とは一般化の程度が現場レベルに近く、そのような本が他には無いのではないか。アドガールの内容が、これまで無かった広告会社の現場の裏側!みたいで新鮮であることと似ている。
相変わらず何もまとまっていないが、イシューから考えるという思考法は他の本には無いので、おすすめ。

読書メモ

  • バリューのある仕事とはなにか
    • 生産性=アウトプット/インプット=成果/投下した労力・時間
    • バリューのマトリクス
      • イシュー度横軸に解の質を縦軸にとった時に、右上(イシュー度が高く解の質が良い)がバリューのある仕事である。
    • issueの定義
      • A)a matter that is dispute between two or more parties
      • B)a vital or unsettled matter
    • 本当に右上の領域に近づこうとするなら、取るべきアプローチは極めて明快だ。先ずは横軸の「イシュー度」を上げ、そののちに縦軸の「解の質」を上げて行く。つまりは「犬の道」とは反対の右回りのアプローチを採ることだ。まず、徹底してビジネス・研究活動の対象を意味のあること、つまりは「イシュー度」の高い問題に絞る。
  • 「イシューからはじめるアプローチ」
    • イシュードリブンー今本当に答えを出すべき問題=「イシュー」を見極める
    • 仮説ドリブン1ーイシューを解けるところまで小さく砕き、それに基づいてストーリーの流れを整理する
    • 仮説ドリブン2ーストーリーを検証するために必要なアウトプットのイメージを描き、分析を設計する
    • アウトプットドリブンーストーリーの骨格を踏まえつつ、段取り良く検証する
    • メッセージドリブンー論拠と構造を磨きつつ、報告書や論文をまとめる
  • プロフェッショナルとしての働き方は、「労働時間が長いほど金をもらえる」というレイバラー、あるいはサラリーマン的な思想とは対局にある。働いた時間ではなく、「どこまで変化を起こせるか」によって対価をもらい、評価される。あるいは、「どこまで意味のあるアウトプットを生み出せるか」によって存在意義が決まる。そんなプロフェッショナル的な生き方へスイッチを入れる事が、高い生産性を生み出すベースになる。
  • 問題はまず「解く」ものと考えがちだが、先ずすべきは本当に解くべき問題、すなわちイシューを「見極める」ことだ。
  • 「スタンスをとる」ことが肝要
    • 強引にでも前倒しで具体的な仮説を立てることが肝心だ。「やってみないとわからないよね」といったことは決して言わない。ここで踏ん張りきれるかどうかが、あとから大きく影響してくる。
  • 僕は「言葉にする事を徹底しよう」「言葉に落とす事に病的なまでにこだわろう」と言うと驚く人が多い。ぼくは「理系的・分析的な人間」だと思われているようで、そうした僕から「言葉を大切にしよう」というセリフが出る事が意外なようだ。
  • よいイシューの3条件
    • 本質的な選択肢である
    • 深い仮説がある
    • 答えを出せる
  • 深い仮説をもつための2つ目の定石は「新しい構造」で世の中を説明できないかと考える事だ。(中略)この構造性の理解には4つのパターンが存在する。
    • 共通性の発見ー脳の構造から翼の構造について洞察できる事が分かれば、進化の比較軸として利用できる
    • 関係性の発見ーポールとジョンが同じ、ジョンとリッチが反対の行動をしていると分かれば、ポールの行動から、リッチの行動を推測できる
    • グルーピングの発見ー何らかの軸で切り分けたグループに違う動きがあれば、それまでとは違う洞察を得る事が出来る
    • ルールの発見ー2つ以上のものに普遍的な仕組み・数量的な関係がある事が分かれば、深い洞察を得る事が出来る
  • 答えを出す必要性を横軸にとり、答えを出せるかを縦軸にとると、「今、本当に答えを出すべき」かつ「答えを出す手段がある」問題は1%しかいない。
  • イシュー特定のための情報収集
    • 一次情報に触れる
  • 基本情報のスキャン
  • イシューが見つからないときのアプローチ
    • 変数を削るーいくつかの要素を固定して、考えるべき変数を削り、見極めのポイントを整理する
    • 視覚化するー問題の構造を視覚化・図示化し、答えを出すべきポイントを整理する
    • 再集計からたどるー全ての課題は解決したときを想定し、現在見えている姿からギャップを整理する
    • So what?=だから何?」という問いかけを繰り返し、仮説を深める
    • 極端な事例を考えるー極端の事例をいくつか考える事でカギとなるイシューを採る
  • 『同じテーマでも仮説の立て方が周到かつ大胆で、実験のアプローチが巧妙である場合と、仮説の立て方がずさんでアプローチも月並みな場合とでは、雲泥の差が生ずる。(略)天才的と言われる人々の仕事の進め方は、仮説の立て方とアプローチの仕方の二点が優れて個性的で、鋭いひらめき、直感に大いに依存している。』ー箱守仙一郎
  • イシューを分析する型
    • WHERE…どのような領域を狙うべきか
    • WHAT…具体的にどのような勝ちのパターンを築くべきか
    • HOW…具体的な取り組みをどのように実現していくべきか
  • 「最後に何が欲しいのか」から考え、そこから必要となる要素を何度も仮想的にシュミレーションをすることが、ダブリもモレもないイシューの分解の基本となる。
  • ストーリーラインの2つの型
    • 「WHY」の並べ立て
      • 「なぜ、案件Aに魅力があるのか」
      • 「なぜ、案件Aを手がけるべきなのか」
      • 「なぜ、案件Aを手がけることができるのか」
    • 空・雨・傘
      • 「空」…○○が問題だ(課題の確認)
      • 「雨」…この問題を解くには、ここを見極めなければならない(課題の深堀り)
      • 「傘」…そうだとすると、こうしよう(結論)
  • 絵コンテ作りで大切な心構えは「大胆に思い切って描く」ということだ。「どんなデータが取れそうか」ではなく、「どんな分析結果が欲しいのか」を起点に分析イメージをつくる。
  • 「分析とは何か?」僕の答えは「分析とは比較、すなわち比べること」というものだ。分析と言われるものに共通するのは、フェアに対象同士を比べ、その違いを見ることだ。
  • 定量分析の3つの型
    • 比較
    • 構成
    • 変化
  • 「原因側」「結果側」双方でどのような比較が必要なのか、どれが一番きれいな結果が出るのかを絵コンテを描きつつ考える。これが軸の整理と本質だ。その軸は当たって、本当に意味のある分析結果が生み出せたときの喜びは大きい。「この結果は、恐らく今、世界で自分しか知らないだろう」とう喜びを噛み締める瞬間だ。
  • 最終的に同じイシューを検証するための分析であっても、それぞれには軽重がある。もっともバリューのあるサブイシューを見極め、そのための分析を行う。
  • 僕たち一人ひとりの仕事の信用のベースは「フェアな姿勢」にある。都合のよいものだけを見る「答えありき」と「イシューからはじめる」考え方は全く違うことを強く認識しておきたい。
  • マービン・ミンスキーがリチャード・ファインマンを評した次の言葉が、質の高いアウトプットを出すことについての本質を突いている。
    • 仲間の圧力に左右されない。
    • 問題の本質が何であるかをいつも見失わず、希望的観測に頼ることが少ない。
    • ものごとを表すのに多くのやり方を持つ。一つの方法が上手く行かなければ、きっと他の方法に切り替える。
  • ミンスキーの話から分かるのは、「もっている手札の数」「自分の技となっている手法の豊かさ」がバリューを生み出す人としての資質に直接的に関わる、ということだ。
  • この「完成度よりもスピード」「エレガンスよりもスピード」という姿勢を実践することで、最終的に使い物になる、受け手にとって勝ちのあるアウトプットを軽快に生み出すことができる。
  • 検討報告の最終的なアウトプットは、ビジネスではプレゼンテーション、研究では論文というかたちをとることが多いだろう。これらは第一に聞き手・読み手と自分の知識ギャップを埋めるためにある。聞き終わった時、あるいは読み終わった時にに、受けてが語り手と同じ様に問題意識を持ち、同じ様に納得し、同じ様に興奮してくれているのが理想だ。このためには、受け手に次のようになってもらうこと必要があるだろう。
    • 意味のある課題を扱っていることを理解してもらう。
    • 最終的なメッセージを理解してもらう
    • メッセージに納得して、行動に移してもらう。
  • 論理の構造を確認するこの段階でカギとなる新しい概念が出てきたら、「オリジナルの名前」を付けるとよい。手垢の付いた言葉を使って説明したために大きな誤解を呼ぶことは多い。
  • ストーリーラインを磨き込む最後の確認事項は「エレベータテスト」に対する準備だ。エレベータテストとは「仮にCEO(最高意思決定者)とエレベータに乗り合わせたとして、エレベータを降りるまでのの時間で自分のプロジェクトの概要を簡潔に説明できるか」というものだ。
  • チャートは図の様に「メッセージ・タイトル・サポート」という3つの要素からできている。一番下には必ず情報源を書く。
  • 「コンプリート・スタッフ・ワーク(Comprete Staff Work)」
    • これは「自分がスタッフとして受けた仕事を完遂せよ。いかなるときにも」とう意味だ。この「コンプリートワーク」という言葉はプロフェッショナルとして仕事をする際には、常に激しく自分にのしかかってくる
  • 「僕は今、自分に出来る限り深いレベルまで、知的生産におけるシンプルな本質を伝えた。あとは、あなたが自分で経験する以外の方法はないはずだ」


戦略論大系〈12〉デルブリュック

戦略論大系〈12〉デルブリュック