「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」から学ぶ目標達成に必要な6つのこと


長きに渡ったハリー・ポッターシリーズの最終章。一番最初の作品が公開されたのは、僕がまだ高校生の頃だったと思います。今ではスターウォーズ並みの長編となりましたが、僕はこういうファンタジーがたらなく好きで、毎回新作が公開されるのを楽しみにしていました。
今日は遂にその最終章「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」を鑑賞してきました。しかも3D!
迫力ある映像と、映画の中に引き込まれそうな演出、スピード感、緊張感のあるサウンド
とにかく面白く、一瞬たりとも目が離せない作品でした。
今回は単純に物語としても面白かったのですが、騎士団を一つの活動組織として捉えその分析を行うと面白そうだったので、思った事のまとめとしてエントリを挙げたいと思います。

コンテンツ

  • 典型的プロセスに乗っ取った騎士団の戦略策定
  • 現状把握から手段の実行
  • 既成概念を打ち破る独創的な方法
  • リーダーである人間の個人的意思
  • フォロワーのサポートとエンパワーメント
  • リーダーとフォロワーとムーヴメントの関係
  • 蛇足<凡人であれリーダーであるということ>

典型的プロセスに乗っ取った騎士団の戦略策定

今回の最終章の戦いで騎士団がヴォルデモートに打ち勝つ事が出来たのは、ただがむしゃらに行動していたことが要因ではありません。彼らは目標達成のための非常に大切で単純なモデルを知らずのうちに実行していたのです。
それではここで言う騎士団の「最終目標」とは何でしょうか。それは「ヴォルデモートを倒す」ことです。これは企業で言うと経営目標に当たります。そして実はこの裏には、詳細については後で詳しく述べますが、ハリー自身の「使命感」が隠れていると推測されます。
さて、ハリーを始め、ハーマイオニー、ロン、ネビル、ルーナ達騎士団の団員達は、その「ヴォルデモードを倒す」という最終目標の元に自ら集まった組織です。目標が明確となっている以上、次に必要となってくるのはその目標を達成するための「手段」と「現状分析」です。
前回の作品になりますが、ダンブルドアがスネイプに殺された後、ハリーは打倒ヴォルデモードを決意し、そこで情報(インプット)を得て、目標達成に必要な要素を分析します。それはすなわち「分霊箱の破壊」です。つまり「ヴォルデモートを倒す」ことをファクター毎に分解していくと、「分霊箱の破壊」が「ヴォルデモートを倒す」手段であるという仮説を立てられます。
そこでハリー達はその目標・手段に対する自分たちの状況を分析します。前回の作品でいくつか分霊箱を破壊していますので、本作品におけるハリー達の現状分析の結果は「破壊すべき分霊箱が未だ3つ残っている」ということになります。
つまり、

  • 目標:「ヴォルデモードを倒す」
  • 手段:「分霊箱の破壊」
  • 現状:「破壊すべき分霊箱が未だ3つ残っている」

となります。

現状把握から手段の実行

状況として、ハリー達は常にヴォルデモート陣営に探索されており、分霊箱の在処に必要な情報を十分に集めるわけにはいきません。とはいえ、全ての必要な情報が集まるまで待機していたのでは、ヴォルデモート陣営がどんどんと勢力を伸ばし、世界を征服してしまいます。これは「俺は起業する」と言いながら、いつまで立っても資金不足を言い訳に起業しない人達が陥る罠です。
困難な目標を達成する際に、全ての条件が揃う事などありえないのです。
実は、ハリー達がヴォルデモートに打ち勝つことができた最大の要因がここに隠されています。
それはすなわち、他のホグワーツの教員・生徒が持っていなかった「実行力」です。
ハリー達は今自分たちが持っている少ない情報から、先ず「ベラトリックスの金庫に分霊箱があるのではないか」という仮説を立てます。現状としてこの仮説が正しいかどうかということは全く分からないのですが、少なくとも今の彼らに他の選択肢はありません。そうなった以上、ヴォルデモートが本格的に動き出す前に事態を進展させるためには、死を覚悟して敵陣に飛び込むしかありません。そしてハリー達は自分たちの仮説を信じ、変身薬を飲んでベラトリックスの金庫に侵入を試み、見事分霊箱を手中に納めます。

既成概念を打ち破る独創的な方法

実はこの金庫侵入ミッションの中で、僕がこの作品で一番印象深い場面がありました。それは、分霊箱を手に入れたもののゴブリンに裏切られ、警備に見つかり、見張りのドラゴンが邪魔して脱出が不可能になった時です。
ここで、チーム内で最も理知的で論理派のハーマイオニーが驚くべき手段を提案します。それは「見張りのドラゴンに乗って脱出する」ということです。
僕は正直驚きました。これこそ正に

問題の大きさに関係無く、今ある資源を使って、それを解決する独創的な方法はつねに存在する
〜20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義〜

ということでした。
論理思考ではこの独創的な答えを出す事はできません。なぜかと言うと、論理思考は「如何にして見張りのドラゴンと敵陣営をかいぐぐり脱出するか」という論点を元に思考を行います。論理思考は論点に対する思考の深堀りですから、その目的に対する手段をいくつか提示することはできても、そもそも「かいぐぐるべきドラゴンの背中に乗ってしまう」という答えは出ないのです。これは所謂水平思考の最骨頂と言って良いでしょう。僕は論理派であるハーマイオニーのこの機転に、思わずにやけてしまいました。

リーダーである人間の個人的意思

さて、次の分霊箱はホグワーツ内の「必要の部屋」にありました。これはハリーがヴォルデモートの心を覗きみたことから発覚しました。本来であれば、死喰い人が周りを飛び回っているホグワーツに侵入するため、綿密な戦略を立てる必要があるところです。しかしハリー達には時間が残されていません。ハリーの能力から得た「ホグワーツの中に次の分霊箱がある」という仮説を証明するべくできることは、行動を起こすこと以外にないことを彼らは直感的に悟っているのです。そして、ドラゴンの背中から海へと飛び降りた直後、すぐに呪文を使って敵陣中であるホグワーツの外周部分へと移動します。
先ほども言いましたが、この「スピード」と「実行力」が、彼らを最終的な勝利へと導く最大の要因となります。
さて、ルーナの助けを借りて分霊箱の在処を突き止めたハリーですが、運悪くもマルフォイ一味に見つかり、炎の呪文で部屋を焼かれてしまします(ここではマルフォイ達も同様に炎に追われることになります)
実はここに、ハリーの根幹を成す「意思」が描かれる場面があります。
基本的にハリーはこれまでホグワーツ魔法学校の生徒として生きてきた経験、また名前を言ってはいけないあの人に対抗する伝説の魔法使いとして生きてきた経験から、ヴォルテモートを倒す事を自らの使命だと感じています。そしてそれは彼の「使命」であって「ハリーがやりたいこと」とイコールではないのです。
僕は今回の作品を見ながらずっとそのことを考えていたのですが、ここでその謎が解けました。
ハリーは必要の部屋で空飛ぶ箒を見つけ、炎の渦巻く部屋からの脱出を試みます。しかし、マルフォイ達は箒を手に出来ず、放っておけばおそらくあと数秒の命です。とは言え、ホグワーツを裏切りヴォルデモート陣営に移り、何度も自分を殺そうとし、尊敬するダンブルドアにも手をかけ、また再び自分を殺しにきたマルフォイです。ハリー自身の命もどうなるかわからない中、ここでの判断はハリーの意思にゆだねられます。
しかしここでハリーは言います。
「放っておく訳にはいかないだろ!」
ここで僕は「ヴォルデモードを倒す」という皆の想いに隠されたハリーの意思が分かりました。それは「やりたいことをやる」ということです。
確かにハリーは、自らの使命感から困難な道を選択してきました。それは全てヴォルデモードを倒すために、他のものを捨てるという覚悟に伴っています。しかし、その裏に実は彼の個人的な想いがあったのです。ここでヴォルテモート陣営であるマルフォイを助けるという事は、自分だけでなく、仲間の命をも危険に晒す事に他なりません。しかしハリーは一度失敗しても、もう一度箒を操作して炎の中に突入し、マルフォイを助けます。
ハリーは使命感よりも前に、自分の強烈な意思を以て行動していたのです。

フォロワーのサポートとエンパワーメント

ハリーの能力によって、最後の分霊箱はヴォルデモートの飼っている蛇のナギニだということが分かりました。順序としては、ナギニを倒す事がヴォルデモートを倒す事になり、直接ヴォルデモートと相対することに比べ非常にリスクが低く、しかも確実な方法です。しかしナギニは常にヴォルテモートの傍らに鎮座しており、単体でナギニを倒すことはほぼ不可能に近いということが分かります。
ここで、騎士団のリーダーであるハリーは一つの判断を下します。それは、ナギニ討伐をメンバーであるハーマイオニーとロンに託し、自分はヴォルデモートと相見えることを決意をするということです。
これは仲間同士の信頼関係に立つエンパワーメントであり、最も上手く組織が回る方法を、ハリーは無意識ながら選択したことになります。
それと同時に、リーダーであるハリーは一人「禁じられた森」に赴き、ヴォルデモートと対峙します。誰にも負うことのできない、リーダーであるハリーにしかできない勇気ある行動であり、リーダーである事の辛さだとも思いました。この場面はハリーにのしかかる責任に重さがスクリーンを通して伝わってきて、本当に見ていて緊張しました。
一度の対決の後、場面はホグワーツでの最終決戦に移りますが、ここでハリーを助けてくれたのはやはり彼のフォロワーであるネビルでした。ナギニ討伐の武器であるバジリスクの牙を失ったハーマイオニーとロンに代わり、グリフィンドールの剣を携えたネビルがナギニの首を両断します。騎士団の全てが運命に引き寄せられた瞬間でした。騎士団メンバーが各自「ヴォルデモードを倒す」という目標に向かって自発的に動いた結果がここに現れたのです。ナギニ(=分霊箱)を失ったヴォルデモートは、粉々に砕け散って行きました。

リーダーとフォロワーとムーヴメントの関係

さて、上記の中で一点触れていない点ですが、リーダーとフォロワーとムーヴメントの関係で非常に分かり易い例が2つありました。

1つ目は、秘密の通路を使ってハリーがホグワーツに戻ってきたときです。
ハリーが戻ってきただけで大勢の仲間達は勇気づけられ、全員で一気に分霊箱探しを実行します。リーダーの一言で、しかも情報も少なく各自何をすればわからなくても、彼の一言で彼らは物凄い勢いで分霊箱探しを開始するのです。これが一つ目のムーヴメントです。

2つ目は、ハリーの侵入がスネイプに見つかり、マクゴナガルと共にスネイプを追い出した後のホグワーツ教職員・生徒達の対応です。
マクゴナガルに何が必要かと尋ねられたハリーは「時間が欲しい。できるだけ長く」と答えます。ハリーの意思を汲み取ったマクゴナガルを始めとるホグワーツ教職員と生徒達は、ダンブルドアとの戦いに備えて全員一丸となって戦いの準備を始めます。1つ目の時と同様、リーダーであるハリーの一言で、全員が決戦に向けて動き出したのです。これが2つ目のムーヴメントでした。

蛇足<凡人であれリーダーであるということ>

さて、様々な登場人物が出てくるハリーポッターシリーズですが、影の主役だと自分が勝手に思っているキャラクターが居ます。それは、ドラコ・マルフォイです。
「戦いに正義と悪など無く、あるのは二つの正義だけだ」という考え方に立つと、当然ハリーの対抗としてヴォルデモートが挙げられます。この戦いで彼が勝利する事があれば、恐らく彼が正義となっていたことでしょう。
しかし、個人的にはヴォルテモートは現実的には対立相手にはしたくないと思っています。なぜかと言うとそれは「同年代」でないからです。僕の個人的な考えで、「同年代」というのは非常に大きなキーワードです。
実はこの物語の中で、ハリーと同年代となるのはホグワーツの生徒達であり、しかもその全てがハリーをリーダーとするダンブルドア軍団員という構図となっています。
その中で唯一ハリーに対抗しているのがマルフォイなのです。
クラスタという考え方に立つと、ホグワーツには「ハリー達」「マルフォイ」という二つのクラスタしか存在しないのです。そして言い方を変えれば、ほとんどの生徒がハリー率いるダンブルドア軍団配下である以上、彼らはリーダーではあり得ないのです。
つまり、ホグワーツにいるリーダーはハリーとマルフォイの二人だけなのです。そして、マルフォイはハリーに嫉妬を抱きながら全編を通して懸命に彼に追いつこうとしますが、最後まで彼に追いつく事はできませんでした。
しかし僕は彼の想いがとてもよくわかります。なぜなら同年代に負けるという事はとても悔しい事だからです。僕自身がそういう考え方をしているので、流れに流されずに最後まで自分の意志を貫きリーダーであろうとしたマルフォイを僕はとても評価しています。
蛇足になりましたが、マルフォイの生き方が自分に省みる部分がありましたので最後に書きました。


※タイトルを修正しました