レトリック感覚 (講談社学術文庫)
- 作者: 佐藤信夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1992/06/05
- メディア: 文庫
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レトリックに関する良本。文章の論理構造については野矢茂樹氏の「論理トレーニング101題」があるが、文章表現について学びたければ、本書を一度読んでおく事をお勧めする。内容は、研究対象としての「レトリック」を、役割(直喩、隠喩、換喩、提喩…)ごとに詳しく解説をしていくというものだ。また、作中例文として都度紹介される古典文学のラインナップがまた素晴らしい。川端康成、夏目漱石、森鴎外、丸谷才一、外山滋比古、太宰治、バルザック、シェイクスピア、ヴォルテール…等。古典の名著に一気に触れることができるので、レトリックが素晴らしい本を見つけるために読んでもよい。
前提
- 古代のレトリックは「1.説得する表現の技術」、「2.芸術的表現の技術」という二重の役割を持っていた。
- 修辞の技術の眼目は、どのように「飾る」かということにあった。古典レトリックの修辞部門においては、実際に文章を飾る技術の公式が、さまざまに考案され、分析され、分類された。
直喩
- 有限の言葉を使って無限の物事を表現するには、十分に揃っていない大工道具で工作をするときのように、工夫が必要である。そういう工夫がことばのあやであり、基本となるのが<直喩>である。
- ものごとの様子を表現するために「XはYのようだ」、「YそっくりのX」…という具合にたとえる形式を「直喩」(あるいは明喩)とも言う。
- 古典レトリックでは「表現に光沢をつけ」「味わひを伝える」レトリックばかりに着目していた点で不十分であった。
- 直喩や隠喩は<二つの物事の類似性に基づく>表現であるというのが古典レトリックの定説であった。しかし、<直喩によって類似性が成立する>という考え方もできる。
隠喩
- あるものごとの名称を、それと似ている別の物事をあらわすために流用する表現法が<隠喩>ーメタフォール(メタファー)である。
- 古代から、現代でもなお、隠喩は常にレトリックの中心的な関心のまとである。
- レトリックは文法的な枠組み(名詞、形容詞、分詞、動詞、副詞)にこだわらないことを目指している。
- かつては比喩的であったがいまでは完全にステレオタイプ化した比喩=<転化表現>もしくは<カタクレーズ>と呼ぶ。
提喩
- 提喩に該当するヨーロッパ語はシネクドック(シネクドキー)である。
- 提喩とは、常識的に期待されているよりも大きな(必要以上に一般的な)意味を持つ言葉を用い、ああるいは逆に、期待よりも小さな(必要以上に特殊な)意味を持つ言葉をもちいる表現であるー言い換えれば、外延的に全体を表す類概念を持って種を表現し、あるいは、外延的に部分をあらわす種概念によって類全体を表現することばのあやである。
列叙法
- <列叙法>を古典レトリックでアキュミュラシォン(アキュミュレイション)あるいはコンジュリーと表現していた。
- ものごとを念入りに表現するためにさまざまのことばを次々と積み上げていく表現法を、まとめて<列叙法>と呼ぶ。
- 列叙法の列叙の仕方には二つの型がある。1.列挙法 2.漸層法
- <列挙法>とはさまざまの同格のことばを次から次へと並べ立てていく表現であり、古典レトリックでエニュメラシォン(イニュメレイション)と呼ばれる。
- <漸層法>はヨーロッパではクリマクス(クライマックス)あるいはグラダシォン(グラデイション)と呼ばれていた。
緩叙法
- <緩叙法>あるいはリトート(ライトティーズ)とよばれる言葉のあやである。
- 言いたい事の反対のことを否定してみせる表現形式を、緩叙法=リトートと呼ぶ。