アーサー王最後の戦い―サトクリフ・オリジナル〈3〉

アーサー王最後の戦い―サトクリフ・オリジナル〈3〉 (サトクリフ・オリジナル (3))

アーサー王最後の戦い―サトクリフ・オリジナル〈3〉 (サトクリフ・オリジナル (3))

アーサー王と円卓の騎士―サトクリフ・オリジナル - THINK CIRCUIT
アーサー王と聖杯の物語―サトクリフ・オリジナル〈2〉 - THINK CIRCUIT

わが目にし、耳にした貴なる騎士の中でも、最高の騎士サー・ランスロットへ、わたくしガウェインよりごあいさつ申し上げ、かつてわれらのあいだに存在した暖かき友情に免じて、そなたのお赦しを請いたい。また、かつての友情の名の下に、たってのお願いをしたい。急いでかき集められるだけの騎士と兵士をともなって、来て欲しい。モルドレッドが反旗を翻した。われらが王アーサーにはそなたの剣がぜひとも必要だ。モルドレッドは人々を騙して王が死んだと思わせ、グヴィネヴィア妃を妻に迎えようとしたが、グヴィネヴィア妃はロンドンの城に閉じこもって、モルドレッドの手を逃れた。今日、われらはドーヴァーに上陸し、モルドレッドを敗走せしめたが、完全に決着がつくまでは、まだまだ戦わねばならない。今日の戦いで、わたしは頭に手ひどい一撃を食らったベンウィック城でそなたから受けたのと同じ場所だ。この負傷のため、わたしは瀕死の床でこれを書いている。すみやかにこられよ。…」

本書後書きにもあるが、このサトクリフ・オリジナルのアーサー王物語の中心人物は、ランスロットだ。ガウェイン・ガラハッド・パーシヴァルと並ぶ円卓の騎士の中心人物であり、最高の騎士と評されたランスロットは、全編を通してグヴィネヴィア妃への想いに悩まされる事になる。そして最終的に、モルドレッドの策略によって、アーサーとの対決を余儀なくさせられるのである。一連して描かれるアーアーへの忠誠とグヴィネヴィアへの愛のジレンマが、非常にうまく描写されている。このアーサー王物語が面白いのは、そういった人間臭い部分が全く今と変わらない様子で書かれている所だ。だれでもそうだと思うのだが、本人にとって社会的に求められている役割と、自分の内から湧いてくる本能的な欲求は、必ずジレンマとなって出てくる。ケルト物語の魔術的な世界観の中で、そうした人間的な苦悩のようなものを同時に描いているのが、物語の大きな魅力の一つなのである。

memo

  • モルドレッド
    • そして、いままでずっと機をうかがっていたかのように、モルドレッドとともに、にわかに闇そのものがしのびよってくるように感じられた…
    • モルドレッドは肩をすくめた…あの男はまだまだ利用価値があったのに。
  • ランスロットとサー・メリアグランス
    • 「サー・メリアグランスよ、門を開けろ。円卓の騎士の風上にもおけぬ、偽の騎士よ。忠誠を誓ったアーサー王にそむく裏切り者め。大王と騎士達はすぐあとからついてくるが、まずは、このわたし、湖のランスロットが、そなたおよび家来とお手合わせいたす。いざ、勝負しろ」
  • ランスロットとウア
    • 「おお、神さま、わたしをあなたの手とならしめたまえ。そして、あなたの手をとおして、この病める騎士を癒させて下さい。あなたのお力とご寵愛によって、この騎士を全き身にもどしてください。わたしの力ではありません。わたしを通して、あなたのお力をお示し下さい」
  • アーサー王
    • 「おお、神よ」と、アーサーは心の最も深い襞の中で祈った。「わたしには何も出来る事はありません。どうか、迫り来る危険について、ガウェインの口からランスロットに警告を与えられますよう、おはからいください」
    • 「宣告がなされてから、七日目の朝まで、刑は執行されない。しかし、それ以後は一日たりとも猶予はならぬ。これは王妃の場合だ。ランスロットについては、捕え次第刑に処す」しかし実のところ、アーサーにはそれ以上毛刑を延期する勇気がなかったのだ。刑を延期する事で、心が弱くなるかもしれない。アーサーはいままで、ブリテンの島に方による統治を実現しようとけんめいにつとめてきた。いま上に流されれば、そんな生涯の努力が水泡に帰する事になるだろう。そのような事態はなんとしてもさけなければならないのだ。
  • モルドレッド
    • 誰にも気づかれる事無く、部屋の片隅にモルドレッドが居た。モルドレッドはガウェインの後ろについて上がってきた。三角巾につった腕をさすりながら、モルドレッドは立っている。そしてにやりと、人知れぬ微笑みを顔に浮かべるのだった。まるで自分の見事な手並みに感じ入る職人のようであった。
  • ランスロットとアーサー
    • 「誰よりもお慕いする王さま、心の底からのお願いです。この争いを終わらせて下さい。愛し、貴びながら王妃さまをお迎え下さい。そしてこれ以上王妃さまに外の及ばぬよう、おはからいください。わたしは狭い海をわたって、ベンウィックの国に帰りましょう。そしてこちらには再び戻りますまい。しかし、王さまがわたしを必要となさる時には、ぜがひでも駆けつけて参りましょう」
  • ガウェイン
    • 「わたしにとって、モルドレッドは死にました。ほかの弟よりも、もっと死んでいます!オークニー国の兄弟で残ったのは、もはや私だけなのです。わたしは、今までと同じように、あなたに忠誠を尽くします」
  • グヴィネヴィア妃とランスロット
    • 「この世では、あなたとわたしはもはや会ってはならないのです。ですから…ですから、いままでの弱いわたしにはその勇気がなかったのですが、いまは、きっぱりと、あなたを自由にして差し上げましょう。ご自分の国にお帰りなさい。そして妻を迎え、楽しくお過ごし下さい。でも、あなた、わたしのために祈る事をいつも忘れないで下さい。神様がわたしの罪をお赦し下さり、わたしの魂を癒して下さいますように」


アーサー王と円卓の騎士―サトクリフ・オリジナル

アーサー王と円卓の騎士―サトクリフ・オリジナル

アーサー王と聖杯の物語―サトクリフ・オリジナル〈2〉 (サトクリフ・オリジナル (2))

アーサー王と聖杯の物語―サトクリフ・オリジナル〈2〉 (サトクリフ・オリジナル (2))