ハゲタカ

作者:青山仁
出版社:講談社文庫
発売日:2006/3/15
評価:★★★★★

ハゲタカ(上) (講談社文庫)

ハゲタカ(上) (講談社文庫)

ハゲタカ2(上) (講談社文庫)

ハゲタカ2(上) (講談社文庫)

この1週間ずっとハゲタカを読んでいた。
元はと言えば1ヶ月くらい前に父親に薦められて本を貰ってしばらく積んであったのだが、調べてみるとNHKでドラマを放送して注目を浴び、映画化もされるということだった。
久しぶりに会った友人にもハゲタカの事を聞いてみたら既に読んでいたらしく、非常に面白いという評価だったので、1週間かけてハゲタカ1・2の計4冊を読み切り、あまりの面白さに今日朝一で渋谷のヒューマントラストシネマまで行って映画を見てきてしまった。


僕は最近ビジネス本やIT・経営・金融関連の本ばかり読んでいて、小説を読む機会があまり無い。
それは、僕が短期的なスパンで物事を考える傾向が強いからだ。
ビジネス本やIT・経営・金融関連の本というのは、程度の差こそあれ比較的その内容を自分の行動に落とし込みやすい。
それに比べて小説というのは、誤解を恐れずに言うと、読んだ結果を反映するのに物凄く時間がかかると思っている。読んで10年くらい経ってから「あの時あの本を読んで良かったな」と感じるものが小説だと思っているわけだ。


物事をlogicとartに切り分けると、小説というのは、映画や音楽・絵画といったartの分野に含まれると思う。
二つのバランスをとることはとても大事なことだと思っていて
目標を達成し、夢を実現し、幸せになるためにできる10のこと - THINK CIRCUIT
この記事でも4番目に同じような意味合いのことを書いている。
しかし最初に書いたように僕は短期的な"成果"を求めがちなので、artの分野に時間を割くということを怠っていて、最近はもっとそのバランスを重要視する必要があると考えていた。
そのような思考の経過もあったので、今回久しぶりに小説を読む決意をし、朝から一人で渋谷の映画館に赴くという行動に至ったわけだ。


グダグダと色々書いたが、映画版の魅力はまた今度書くとして、今回は原作である小説版の感想を。

金融という舞台


ハゲタカが他の作品より面白いと感じる人は、少なからずこの作品の舞台に共感できる人だと思う。それは文字通り、金融という舞台だ。
僕自身は金融関係の仕事に就いている訳でも無いが、昔から株や投信に手を出し、就職活動の時は銀行や証券・保険業界といった業界を回っていたので、微々たるものではあるが知識はある。
もちろん金融という世界にあまり興味を持っていなくても、ストーリーは練り上げられているし、キャラクターの個性が際立っているから、誰でも楽しめる要素はあると思う。
しかし金融という世界に足を突っ込んでいる人にとっては、たまらなく"アツイ"作品であることは間違いない。

正義を貫く役者達


ハゲタカではそれぞれのキャラクターが自分の正義を貫いて戦っている。

「俺は悪党じゃないさ。正義の味方だ。ただ、世間の正義と俺の正義が違うだけだ」

鷲津が言ったこの言葉がまさにその事を表している。
彼だけではなく、芝野も、リンも、貴子も、アランも、サムも、そして自分の保身だけを考える悪役として描かれている飯島や、バイアウトされる企業の経営者達も、それぞれが自分の正義を貫き通す。
弱くてはやっていけない世界で信念を持った連中同士が戦うと迫力がある。


僕なんかは断然鷲津がかっこいいと思ってしまう典型的なミーハータイプだ。
頭脳は天才の域だし、物言いも男らしいし、金も持っているし、強靭な意志力もある。そしてなにより追い詰められても逆転を狙う執念がある。
しかし、飯島にも同じような魅力があるのだ。
彼は自らの地位を守るためだけにあの手この手で策略を練る。
死に場所を求めて戦う鷲津とは正反対の立場だが、何が何でも自分を守り、そのためにはどんなことだってするのが彼の正義だ。その意思の貫き方は半端じゃない。
何よりも自分のために戦うというのが僕の目には魅力的に映るわけだな。

金は手段であって目的ではない


彼らが戦って奪い合っているのは金だ。
しかし金が欲しくて戦っているのかというと、そういう風には見えない。
彼らは結構自分達がただ単にやりたいと思ったことをやっているのではないか思う。
リンやアランで言えば、鷲津という天才に認められたいという一心でビジネスをしている。
認められ、成果を上げるためには客観的な物差しが必要であり、その役割を果たすのに最も適しているのが金というだけだ。
貴子はと言えば、ミカドホテルの再建が彼女にとっての目標であり、やりたいことだ。
そしてその苦難を乗り越えるために必要なのが金であるというだけの話だ。
飯島だってそうだ。彼も金が欲しいのでなく、地位や権力・女・贅を尽くした生活に必要なのが金であり、そのためにビジネスをしている。


結局、それぞれの人間にとっての価値を計るのに最も適した媒体が金であり、そのために彼らは金を巡って争うことになるのだ。


とりあえず、こんな事を一から考えている暇があったら、僕は資本論をまともに読むべきだ。
マルクスは人生かけてこんな妄想に耽っていたのだろうか。どうかしている。

まとめとか


一言で面白いと言ってしまえばそれまでだけれど、金融という魑魅魍魎が渦巻く世界でそれぞれの人間が葛藤しながら戦う様に完全に引き込まれてしまった。
暇があれば、映画版の感想も書きます。