ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる

作者:梅田望夫
出版社:ちくま新書
発売日:2006/2/10
評価:★★★★

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

本棚に眠っていた「ウェブ進化論」を引っ張り出してきた。
正確には覚えていないが、確かこの本が有名になった頃に買って一度読んだのだが、途中で読むのを辞めてしまった記憶がある。
当時僕のIT知識は今に比べたらそれこそ人並み程度で、グーグルやWeb2.0・オープン化なんてものは、漠然としたイメージでしかなかった。
おそらく本書を読んでもいまいちピンとこなかったのであろう。

この「ウェブ進化論」は多くのブログで書評が書かれているし、僕自身ちゃんと読んでいないのに、何故か読んだ気になってしまっている。
しかし、有名な本を途中で投げてしまったというのは大変恥ずかしい。
しかも今やシステム会社で働くIT人間だ。
だから、今一度本書を読んでみた。

感想

やはり、再読の価値は十分にあった。
本書のテーマはグーグル・Web2.0・オープン化と言ったところだ。
今でこそ、これらの単語を聞いてもすんなりと耳に入ってくる方も多いだろうが、3年前に果たしてそれぞれにしっかりしたイメージを持っていた人がどれほどいただろうか。
最近のITニュースは専らクラウド関連で、今更オープン化が何だ、グーグルが何だという人もいるかもしれない。
しかし本書を読んでいない人は、是非一度手に取ってみて欲しい。
クラウドという言葉がまだ定着していなかった頃に、ネットの向こう側の話をこれだけ分かりやすく解説した本は無かっただろう。
扱っている話題こそ聞き慣れたものかもしれないが、その主張は今でも十分に通じるものである。
以下、内容をまとめる。
全体の趣旨はクラウド的な要素を含んでいるが、ここではグーグルを中心に書かせてもらう。

グーグルが、ウェブ上での民主主義を創る

何よりも印象に残ったのは、グーグルによってウェブ上に民主主義が実現するということだ。
ここで言う民主主義とは、中身が優秀なコンテンツであればそれが世界中から認められ、またリアル世界での上から下に金が流れる富の分配メカニズムを克服し、経済的格差さえも是正されるというものである。
グーグルのページランク・アルコリズムによって、とにかく優秀なものは優秀だと認められ、全世界に発信される。そこでは権威など意味が無い。重要なのは、その中身をいかに人々が欲しているかに尽きる。言ってしまえば、教授も政治家も弁護士もサラリーマンも学生もニートも、皆同じ土俵に立って競争するわけである。
またグーグルのアドセンス経済圏では、報酬はドルやユーロで均等に支払われる。上から下へ金か流れていくシステムはもうそこには無く、全世界の人々に平等にチャンスを掴む機会が与えられる。「富の分配」メカニズムはグーグルによって過去の遺産となり、本当の意味で世界が同じ経済圏となる。
そして、ヤフーが情報の提供に人を介在させるのに比べて、グーグルはコンテンツの提供に人の介在を出来る限り少なくしようとする。そうすることによって情報自身の淘汰が起こり、真に必要とされる情報は自動的に世界中に届くことになる。それはインターネットの意思とも呼べるものだ。

民主主義だ、経済的格差是正だなんて大仰な事を標榜したIT企業は過去に存在しない。そこにグーグルの新しさがある。「インターネットの意思」に従えば、「世界はより良い場所になる」と彼らは心から信じているのである。 P.77

グーグルアドセンスによる、未知の可能性

この現象を支持する要素は他にもある。
ロングテール現象というものをご存知だろうか。
アマゾンは売上の半分をそのロングテール部分から上げている。インターネットによって、今まで日の目を浴びてこなかった本が、ここに来て人の手に届くようになったのだ。そこにはもちろん、良質な内容でありながら、権威が無いというだけで淘汰されてきた本が数多く含まれている。
そしてグーグルのアドセンスでは、このロングテール部分に並んでいるのは、未知なる可能性である。そこには今まで見たことのない良質なコンテンツが埋もれているかもしれない。また望めば誰もがそのロングテールに並ぶことができる。

「絶対に儲からないから、そんな小さな客やそんな小さなメディアの相手はするな」と電通が考える対象こそが、グーグルにとっての市場だ。そんなロングテール市場が大きいことを仮に電通が認識したって、リアル大組織のコスト構造の重みゆえ、例え少々の売上があがってもやればやるだけ損が積み重なるから、絶対に追求できない。 P.111」

ブログと総表現社会

ブログの出現もウェブ上の民主主義実現に勢いをつける。
今やブログの出現によって、コンテンツ全体の需給バランスが崩壊しつつある。マスコミや新聞などの既存のメディアは、これから如何にしてインターネットと付き合っていくか決断を迫られるだろう。
なぜならば、ブログは発信されたと同時に情報自身の淘汰によって選別され、より良質なコンテンツが持ち上がってくる。能動的な人間であれば、権威が都合のいいように選別したマスコミの情報と、どちらかを選べと問われたら、答えは明らかだろう。

編集後

実際にポイントを拾ってみて、改めて本書の主張の面白さを実感した。
グーグルが何をやっているのか、ということを理解するにはもってこいの本だと思う。
ウェブ上の民主主義は、近いうちに実現されるのか。それとも既に始まっているのだろうか。